LibeSIM

比嘉 叶

2026/07/01 01:00

SGP.21/22とは?スマホのeSIMを支えるコンシューマ向けRSPを解説

SGP.21/22とは?スマホのeSIMを支えるコンシューマ向けRSPを解説

こんにちは、コモン・クリエーションでIoT・SIMエンジニアリングサービスでプロジェクトマネジメントを担当している比嘉です。本記事では、スマートフォンのeSIMを支えるコンシューマ向けリモートSIMプロビジョニング(Consumer RSP)の仕様である SGP.21 と SGP.22 を取り上げ、SM-DP+・SM-DS・LPA という 3 つの登場人物の役割分担と、「エンドユーザー主導のプル型」という設計思想を整理します。

はじめに

スマートフォンで QR コードを読み取ると、数十秒で新しい回線が使えるようになります。この体験の裏側を規定しているのが、GSMA の Consumer RSP 仕様群です。eSIM のリモートプロビジョニング仕様には M2M・Consumer・IoT の 3 系統があり、全体像は eSIMの3つのアーキテクチャとは? で整理しています。本稿はそのうち Consumer 方式を扱います。

本稿では、以下の項目を SGP.21 / SGP.22 に基づいて整理します。

  • SGP.21 と SGP.22 の位置づけ(アーキテクチャ仕様と技術仕様の分担)

  • SM-DP+・SM-DS・LPA・eUICC の役割分担

  • なぜ Consumer RSP は「プル型」なのか|設計思想の背景

  • 主要な ES インタフェースの一覧と、v3 系で加わった拡張の概観


1. まず全体像から|Consumer RSPをざっくり理解する

Consumer RSP は、ひとことで言うと「エンドユーザーが自分の意思で、通信事業者のプロファイルを端末にダウンロードして使う」ための仕組みです。プロファイル(Profile。加入者情報・鍵・アプリ一式を含む、いわば仮想的な SIM カードの中身)を、サーバーから eUICC(embedded UICC。端末に組み込まれた書き換え可能な SIM チップ)へ安全に届けます。

登場人物は 3 つだけ覚えれば十分です。空港の航空券にたとえると、次のようになります。

  • SM-DP+(Subscription Manager - Data Preparation +)は「発券カウンター」。通信事業者の依頼を受けてプロファイルを準備し、本人が取りに来たら渡します。

  • SM-DS(Subscription Manager - Discovery Server)は「案内板」。「あなた宛のプロファイルは、あのカウンターにありますよ」と場所だけを教えます。

  • LPA(Local Profile Assistant)は「本人の足」。端末の中にいるソフトウェアで、ユーザーの操作を受けてカウンターまで取りに行き、受け取ったプロファイルを eUICC に格納します。

重要なのは、荷物が勝手に送りつけられるのではなく、必ず本人(端末側)が取りに行く点です。これをプル型と呼びます。M2M 方式(SGP.02)ではサーバー側が SIM に書き込みを仕掛けるプッシュ型でしたが、Consumer 方式では起点がユーザー操作に移りました。QR コードの読み取りは「引換券の提示」に相当します。厳密には、SM-DP+ は単なる窓口ではなく、プロファイルの生成・暗号化・eUICC への紐付けまで担う能動的なサーバーです。この点は後述します。


2. SGP.21とSGP.22|2つの文書の位置づけ

Consumer RSP は、GSMA の 2 つの Official Document のセットで規定されています。

文書

通称

役割

主なバージョン

SGP.21

RSP Architecture

要件とアーキテクチャの定義。登場するエンティティ、セキュリティ要件、ユーザー体験の原則

v2 系(v2.6 ほか)と v3 系(v3.1 ほか)

SGP.22

RSP Technical Specification

技術仕様。各インタフェースの関数定義、ASN.1 データ構造、プロトコルバインディング

v2 系(v2.6 ほか)と v3 系(v3.1 ほか)

SGP.21 が「何を実現するか」を、SGP.22 が「どう実装するか」を定める分担です。バージョンは v2 系と v3 系が並行して維持されており、市場に流通する端末の多くは v2 系(SGP.22 v2.2.x 以降)で相互接続しています。v3 系は後述する MEP や RPM などの拡張を含む世代です。

周辺には適合性試験を定める SGP.23 などもありますが、この 2 つを押さえれば Consumer RSP の骨格は読めます。


3. 役割分担の詳解|SM-DP+・SM-DS・LPA・eUICC

3-1. SM-DP+|プロファイルの生成から配送までを一手に担う

SM-DP+ は、通信事業者(MNO/MVNO)からの発注(ES2+ インタフェース)を受けてプロファイルを生成し、保護し、特定の eUICC に紐付け(バインド)、端末へ配送するサーバーです。配送されるデータは BPP(Bound Profile Package。特定の eUICC の鍵でのみ復号できる形に暗号化されたプロファイルパッケージ)と呼ばれます。

名前の末尾の「+」には歴史的な意味があります。M2M 方式ではプロファイル生成を担う SM-DP と、状態管理・配送を担う SM-SR が別のサーバーでした。Consumer 方式ではこの 2 つの機能を統合したものが SM-DP+ です。SM-SR が消えたことで、M2M 方式で問題になった「SM-SR の切り替えが事実上困難」という課題も構造的に解消されました。

SM-DP+ と eUICC の間では、TLS とは別レイヤで Common Mutual Authentication(GSMA の証明書チェーンに基づく相互認証)が行われ、プロファイルはエンドツーエンドで保護されます。証明書チェーンの信頼の起点は別記事(eSIMのPKIと証明書チェーン)で詳しく扱います。

3-2. SM-DS|「どこに取りに行くか」だけを教えるディスカバリサーバー

プル型には 1 つ弱点があります。端末は「自分宛のプロファイルがどの SM-DP+ にあるか」を、QR コード(Activation Code)を読まない限り知りようがない点です。これを補うのが SM-DS です。

  • SM-DP+ は、プロファイルを準備したら SM-DS に「この EID 宛のイベントがある」と登録します(ES12)

  • 端末の LPA は、起動時などに SM-DS へ問い合わせ(ES11)、自分の EID 宛のイベントがあれば該当の SM-DP+ アドレスを受け取ります

SM-DS が扱うのはあくまで「イベント(所在情報)」だけで、プロファイル本体は通過しません。GSMA が運用する Root SM-DS を頂点に、代替 SM-DS をカスケード接続する構成(ES15)も定義されています。Activation Code の構造とあわせた詳細は、別記事(Activation CodeとSM-DSディスカバリ)で解説します。

3-3. LPA|端末内の実行役。3つの機能ブロック

LPA は端末側のソフトウェアで、内部は 3 つの機能に分かれます。

機能

正式名称

役割

LUI

Local User Interface

ユーザーへの表示と同意取得。プロファイル一覧、有効化/無効化の操作画面

LPD

Local Profile Download

SM-DP+ からの BPP ダウンロード(ES9+)と eUICC への分割転送

LDS

Local Discovery Service

SM-DS への問い合わせ(ES11)

LPA が端末 OS 側にある形態を LPAd、eUICC 内に実装する形態を LPAe と呼びます。IoT 方式の IPA も含めた端末側エージェントの整理は、別記事(LPA/IPAの総整理)に譲ります。

3-4. eUICC|受け皿となるセキュアエレメント

eUICC の内部では、ISD-R がプロファイル管理を、ISD-P が個々のプロファイルの格納を、ECASD が鍵と証明書の保管を担います。内部構造は別記事(eUICCのアーキテクチャ)で詳解しているため、本稿では割愛します。

3-5. 全体構成図

4. なぜプル型なのか|Consumer RSPの設計思想

Consumer RSP の設計は、一貫して「エンドユーザーの意思(End User Intent)」を起点に置いています。SGP.21 は、プロファイルのダウンロードや有効化にユーザーの同意を求めることを要件として定めています。背景には技術面と事業面の理由があります。

  • 技術面: スマートフォンは NAT やファイアウォールの内側にあり、サーバーから接続を張るプッシュ型は成立しにくい。端末側から HTTPS で取りに行くプル型が現実的でした。

  • 事業面: 消費者向けでは、契約先の事業者を選ぶ主体はユーザーです。サーバー側が一方的にプロファイルを差し替えられる設計は、消費者保護の観点で受け入れられません。

一方でこの設計は「ユーザーが操作できる UI がある」ことを前提とします。画面を持たないセンサーやメーターには適用しづらく、この制約が後の IoT 方式(SGP.31/SGP.32)を生む動機になりました。


5. 主要なESインタフェースとv3系の拡張

5-1. ESインタフェース一覧

各エンティティ間の接続点は「ES」で始まる参照点として定義されています。主要なものを一覧にします。

インタフェース

区間

用途

ES2+

Operator ↔ SM-DP+

プロファイルの発注・状態連携

ES8+

SM-DP+ ↔ eUICC

プロファイル配送のエンドツーエンド保護チャネル

ES9+

SM-DP+ ↔ LPD

相互認証と BPP のダウンロード

ES10a/b/c

LPA ↔ eUICC

端末内部のローカルインタフェース(a: 設定、b: プロファイル操作、c: ユーザー向け管理)

ES11

LDS ↔ SM-DS

イベントの問い合わせ(ディスカバリ)

ES12

SM-DP+ ↔ SM-DS

イベントの登録・削除

ES15

SM-DS ↔ SM-DS

SM-DS 間のカスケード接続

各関数の中身と「どこを誰と誰が話すか」の一枚図は、次の記事 SM-DP+とESインタフェース詳解 で掘り下げます。

5-2. v3系で加わった主な拡張

SGP.22 v3 系では、v2 系のプル型の枠組みを保ったまま、次の拡張が加わりました。

  • RPM(Remote Profile Management): 認可された事業者が、ユーザー同意の枠組みの中でプロファイルの有効化・無効化・削除などを遠隔から指示できる機能

  • MEP(Multiple Enabled Profiles): 1 つの eUICC で複数プロファイルを同時に有効化し、デュアル SIM 的な利用を 1 チップで実現する機能

  • Device Change / Push 通知: 機種変更時のプロファイル移行手順や、ポーリングに頼らないイベント通知の仕組み

これらの v2/v3 差分は SGP.22 v3の新機能|MEPとDevice Change で個別に整理します。また、Consumer RSP をベースに UI なし機器へ対応させた IoT 方式(SGP.31/SGP.32)は、この v3 世代の枠組みを土台にしています。


まとめ

  • Consumer RSP は SGP.21(アーキテクチャ)と SGP.22(技術仕様)のセットで規定される、スマートフォン向け eSIM の主流方式

  • 役割分担は「生成から配送まで担う SM-DP+」「所在だけを案内する SM-DS」「端末内で実行する LPA(LUI/LPD/LDS)」の 3 者

  • SM-DP+ は M2M 方式の SM-DP と SM-SR の機能を統合したもので、SM-SR スイッチ問題を構造的に解消した

  • 設計思想は「エンドユーザーの意思を起点とするプル型」。同意なしにプロファイルは書き込まれない

  • 各区間は ES2+/ES8+/ES9+/ES10/ES11/ES12 などの参照点で責務が分離されている

  • v3 系では RPM・MEP・Device Change が加わり、この枠組みが IoT 方式(SGP.31/32)の土台にもなった

「誰が起点か」という一点を押さえると、M2M・Consumer・IoT の 3 方式の違いは驚くほど見通しよく整理できます。Consumer RSP の起点は、常にエンドユーザーです。


参考規格

  • GSMA SGP.21 v2.7|RSP Architecture

  • GSMA SGP.22 v3.1|RSP Technical Specification

  • GSMA SGP.23|RSP Test Specification

  • GSMA SGP.02 v4.3|Remote Provisioning Architecture for Embedded UICC Technical Specification(M2M方式との比較として)

おわりに

弊社では「LibeSIM」として、SM-DP+やMVNO回線、eIM(eSIM IoT Remote Manager)、eUICC、IPA/LPAのご提供を行っております。 ご興味がございましたら、デモやPoC等行っておりますので、ぜひお問い合わせください。

https://common-creation.com/service/libesim

比嘉 叶

コモン・クリエーション株式会社

シニアマネージャー

eSIM Tech Partner「LibeSIM」のサービス開発と、SIMアプレット・SGP.32関連の受託開発のプロジェクトマネジメントを担当。ソフトウェア開発会社で約10年間、システムの開発とプロジェクトマネジメントに従事し、要件定義から開発・インフラ構築・顧客折衝までを一貫して手がける。