SGP.21/22とは?スマホのeSIMを支えるコンシューマ向けRSPを解説

こんにちは、コモン・クリエーションでIoT・SIMエンジニアリングサービスでプロジェクトマネジメントを担当している比嘉です。本記事では、スマートフォンのeSIMを支えるコンシューマ向けリモートSIMプロビジョニング(Consumer RSP)の仕様である SGP.21 と SGP.22 を取り上げ、SM-DP+・SM-DS・LPA という 3 つの登場人物の役割分担と、「エンドユーザー主導のプル型」という設計思想を整理します。
はじめに
スマートフォンで QR コードを読み取ると、数十秒で新しい回線が使えるようになります。この体験の裏側を規定しているのが、GSMA の Consumer RSP 仕様群です。eSIM のリモートプロビジョニング仕様には M2M・Consumer・IoT の 3 系統があり、全体像は eSIMの3つのアーキテクチャとは? で整理しています。本稿はそのうち Consumer 方式を扱います。
本稿では、以下の項目を SGP.21 / SGP.22 に基づいて整理します。
SGP.21 と SGP.22 の位置づけ(アーキテクチャ仕様と技術仕様の分担)
SM-DP+・SM-DS・LPA・eUICC の役割分担
なぜ Consumer RSP は「プル型」なのか|設計思想の背景
主要な ES インタフェースの一覧と、v3 系で加わった拡張の概観
1. まず全体像から|Consumer RSPをざっくり理解する
Consumer RSP は、ひとことで言うと「エンドユーザーが自分の意思で、通信事業者のプロファイルを端末にダウンロードして使う」ための仕組みです。プロファイル(Profile。加入者情報・鍵・アプリ一式を含む、いわば仮想的な SIM カードの中身)を、サーバーから eUICC(embedded UICC。端末に組み込まれた書き換え可能な SIM チップ)へ安全に届けます。
登場人物は 3 つだけ覚えれば十分です。空港の航空券にたとえると、次のようになります。
SM-DP+(Subscription Manager - Data Preparation +)は「発券カウンター」。通信事業者の依頼を受けてプロファイルを準備し、本人が取りに来たら渡します。
SM-DS(Subscription Manager - Discovery Server)は「案内板」。「あなた宛のプロファイルは、あのカウンターにありますよ」と場所だけを教えます。
LPA(Local Profile Assistant)は「本人の足」。端末の中にいるソフトウェアで、ユーザーの操作を受けてカウンターまで取りに行き、受け取ったプロファイルを eUICC に格納します。
重要なのは、荷物が勝手に送りつけられるのではなく、必ず本人(端末側)が取りに行く点です。これをプル型と呼びます。M2M 方式(SGP.02)ではサーバー側が SIM に書き込みを仕掛けるプッシュ型でしたが、Consumer 方式では起点がユーザー操作に移りました。QR コードの読み取りは「引換券の提示」に相当します。厳密には、SM-DP+ は単なる窓口ではなく、プロファイルの生成・暗号化・eUICC への紐付けまで担う能動的なサーバーです。この点は後述します。
2. SGP.21とSGP.22|2つの文書の位置づけ
Consumer RSP は、GSMA の 2 つの Official Document のセットで規定されています。
文書 | 通称 | 役割 | 主なバージョン |
|---|---|---|---|
SGP.21 | RSP Architecture | 要件とアーキテクチャの定義。登場するエンティティ、セキュリティ要件、ユーザー体験の原則 | v2 系(v2.6 ほか)と v3 系(v3.1 ほか) |
SGP.22 | RSP Technical Specification | 技術仕様。各インタフェースの関数定義、ASN.1 データ構造、プロトコルバインディング | v2 系(v2.6 ほか)と v3 系(v3.1 ほか) |
SGP.21 が「何を実現するか」を、SGP.22 が「どう実装するか」を定める分担です。バージョンは v2 系と v3 系が並行して維持されており、市場に流通する端末の多くは v2 系(SGP.22 v2.2.x 以降)で相互接続しています。v3 系は後述する MEP や RPM などの拡張を含む世代です。
周辺には適合性試験を定める SGP.23 などもありますが、この 2 つを押さえれば Consumer RSP の骨格は読めます。
3. 役割分担の詳解|SM-DP+・SM-DS・LPA・eUICC
3-1. SM-DP+|プロファイルの生成から配送までを一手に担う
SM-DP+ は、通信事業者(MNO/MVNO)からの発注(ES2+ インタフェース)を受けてプロファイルを生成し、保護し、特定の eUICC に紐付け(バインド)、端末へ配送するサーバーです。配送されるデータは BPP(Bound Profile Package。特定の eUICC の鍵でのみ復号できる形に暗号化されたプロファイルパッケージ)と呼ばれます。
名前の末尾の「+」には歴史的な意味があります。M2M 方式ではプロファイル生成を担う SM-DP と、状態管理・配送を担う SM-SR が別のサーバーでした。Consumer 方式ではこの 2 つの機能を統合したものが SM-DP+ です。SM-SR が消えたことで、M2M 方式で問題になった「SM-SR の切り替えが事実上困難」という課題も構造的に解消されました。
SM-DP+ と eUICC の間では、TLS とは別レイヤで Common Mutual Authentication(GSMA の証明書チェーンに基づく相互認証)が行われ、プロファイルはエンドツーエンドで保護されます。証明書チェーンの信頼の起点は別記事(eSIMのPKIと証明書チェーン)で詳しく扱います。
3-2. SM-DS|「どこに取りに行くか」だけを教えるディスカバリサーバー
プル型には 1 つ弱点があります。端末は「自分宛のプロファイルがどの SM-DP+ にあるか」を、QR コード(Activation Code)を読まない限り知りようがない点です。これを補うのが SM-DS です。
SM-DP+ は、プロファイルを準備したら SM-DS に「この EID 宛のイベントがある」と登録します(ES12)
端末の LPA は、起動時などに SM-DS へ問い合わせ(ES11)、自分の EID 宛のイベントがあれば該当の SM-DP+ アドレスを受け取ります
SM-DS が扱うのはあくまで「イベント(所在情報)」だけで、プロファイル本体は通過しません。GSMA が運用する Root SM-DS を頂点に、代替 SM-DS をカスケード接続する構成(ES15)も定義されています。Activation Code の構造とあわせた詳細は、別記事(Activation CodeとSM-DSディスカバリ)で解説します。
3-3. LPA|端末内の実行役。3つの機能ブロック
LPA は端末側のソフトウェアで、内部は 3 つの機能に分かれます。
機能 | 正式名称 | 役割 |
|---|---|---|
LUI | Local User Interface | ユーザーへの表示と同意取得。プロファイル一覧、有効化/無効化の操作画面 |
LPD | Local Profile Download | SM-DP+ からの BPP ダウンロード(ES9+)と eUICC への分割転送 |
LDS | Local Discovery Service | SM-DS への問い合わせ(ES11) |
LPA が端末 OS 側にある形態を LPAd、eUICC 内に実装する形態を LPAe と呼びます。IoT 方式の IPA も含めた端末側エージェントの整理は、別記事(LPA/IPAの総整理)に譲ります。
3-4. eUICC|受け皿となるセキュアエレメント
eUICC の内部では、ISD-R がプロファイル管理を、ISD-P が個々のプロファイルの格納を、ECASD が鍵と証明書の保管を担います。内部構造は別記事(eUICCのアーキテクチャ)で詳解しているため、本稿では割愛します。
3-5. 全体構成図

4. なぜプル型なのか|Consumer RSPの設計思想
Consumer RSP の設計は、一貫して「エンドユーザーの意思(End User Intent)」を起点に置いています。SGP.21 は、プロファイルのダウンロードや有効化にユーザーの同意を求めることを要件として定めています。背景には技術面と事業面の理由があります。
技術面: スマートフォンは NAT やファイアウォールの内側にあり、サーバーから接続を張るプッシュ型は成立しにくい。端末側から HTTPS で取りに行くプル型が現実的でした。
事業面: 消費者向けでは、契約先の事業者を選ぶ主体はユーザーです。サーバー側が一方的にプロファイルを差し替えられる設計は、消費者保護の観点で受け入れられません。
一方でこの設計は「ユーザーが操作できる UI がある」ことを前提とします。画面を持たないセンサーやメーターには適用しづらく、この制約が後の IoT 方式(SGP.31/SGP.32)を生む動機になりました。
5. 主要なESインタフェースとv3系の拡張
5-1. ESインタフェース一覧
各エンティティ間の接続点は「ES」で始まる参照点として定義されています。主要なものを一覧にします。
インタフェース | 区間 | 用途 |
|---|---|---|
ES2+ | Operator ↔ SM-DP+ | プロファイルの発注・状態連携 |
ES8+ | SM-DP+ ↔ eUICC | プロファイル配送のエンドツーエンド保護チャネル |
ES9+ | SM-DP+ ↔ LPD | 相互認証と BPP のダウンロード |
ES10a/b/c | LPA ↔ eUICC | 端末内部のローカルインタフェース(a: 設定、b: プロファイル操作、c: ユーザー向け管理) |
ES11 | LDS ↔ SM-DS | イベントの問い合わせ(ディスカバリ) |
ES12 | SM-DP+ ↔ SM-DS | イベントの登録・削除 |
ES15 | SM-DS ↔ SM-DS | SM-DS 間のカスケード接続 |
各関数の中身と「どこを誰と誰が話すか」の一枚図は、次の記事 SM-DP+とESインタフェース詳解 で掘り下げます。
5-2. v3系で加わった主な拡張
SGP.22 v3 系では、v2 系のプル型の枠組みを保ったまま、次の拡張が加わりました。
RPM(Remote Profile Management): 認可された事業者が、ユーザー同意の枠組みの中でプロファイルの有効化・無効化・削除などを遠隔から指示できる機能
MEP(Multiple Enabled Profiles): 1 つの eUICC で複数プロファイルを同時に有効化し、デュアル SIM 的な利用を 1 チップで実現する機能
Device Change / Push 通知: 機種変更時のプロファイル移行手順や、ポーリングに頼らないイベント通知の仕組み
これらの v2/v3 差分は SGP.22 v3の新機能|MEPとDevice Change で個別に整理します。また、Consumer RSP をベースに UI なし機器へ対応させた IoT 方式(SGP.31/SGP.32)は、この v3 世代の枠組みを土台にしています。
まとめ
Consumer RSP は SGP.21(アーキテクチャ)と SGP.22(技術仕様)のセットで規定される、スマートフォン向け eSIM の主流方式
役割分担は「生成から配送まで担う SM-DP+」「所在だけを案内する SM-DS」「端末内で実行する LPA(LUI/LPD/LDS)」の 3 者
SM-DP+ は M2M 方式の SM-DP と SM-SR の機能を統合したもので、SM-SR スイッチ問題を構造的に解消した
設計思想は「エンドユーザーの意思を起点とするプル型」。同意なしにプロファイルは書き込まれない
各区間は ES2+/ES8+/ES9+/ES10/ES11/ES12 などの参照点で責務が分離されている
v3 系では RPM・MEP・Device Change が加わり、この枠組みが IoT 方式(SGP.31/32)の土台にもなった
「誰が起点か」という一点を押さえると、M2M・Consumer・IoT の 3 方式の違いは驚くほど見通しよく整理できます。Consumer RSP の起点は、常にエンドユーザーです。
参考規格
GSMA SGP.21 v2.7|RSP Architecture
GSMA SGP.22 v3.1|RSP Technical Specification
GSMA SGP.23|RSP Test Specification
GSMA SGP.02 v4.3|Remote Provisioning Architecture for Embedded UICC Technical Specification(M2M方式との比較として)
おわりに
弊社では「LibeSIM」として、SM-DP+やMVNO回線、eIM(eSIM IoT Remote Manager)、eUICC、IPA/LPAのご提供を行っております。 ご興味がございましたら、デモやPoC等行っておりますので、ぜひお問い合わせください。
比嘉 叶
コモン・クリエーション株式会社
シニアマネージャー
eSIM Tech Partner「LibeSIM」のサービス開発と、SIMアプレット・SGP.32関連の受託開発のプロジェクトマネジメントを担当。ソフトウェア開発会社で約10年間、システムの開発とプロジェクトマネジメントに従事し、要件定義から開発・インフラ構築・顧客折衝までを一貫して手がける。